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はじめに
最新の『名探偵コナン』制作では、手描き背景だけでなくドローン視点のリアルな空撮風カットを3DCGで合成する手法が導入されました。本記事では、劇場版やTVシリーズの実在シーンを振り返りながら、神戸・横浜でのドローンリファレンス撮影からMayaによる3Dモデル構築、V-Rayレンダリング、Nukeでのコンポジットに至るまで、徹底解説します。
1.リファレンス映像撮影
1-1. 実在回の紹介
- 劇場版『ゼロの執行人』冒頭:公安機密ビルを上空から捉え、米花町全景にワイドズームアウトする一連のショット(ドローン風)。
- TVA第772話「米花町ジェットコースター襲撃事件」:遊園地を逃走する犯人を、街並み越しに追跡する俯瞰カット。
これらを参考に、実際のロケハンでは神戸・横浜の高層ビル群をドローンで空撮し、街路の色味・建物の高さバランスをチェックしました。
1-2. 撮影機材とフライトプラン
- 機材:DJI Inspire 2+Zenmuse X7(6K CinemaDNG)
- 設定:60fps/シャッタースピード1/120秒/絞りf4.0
- フライト:
- 高度100mからの360°回転
- 高度80→20mへのノーズダウンズーム
- 街路に沿った水平パン
撮影中は午前10時前後の“影がはっきり出るタイミング”を狙い、HDRパノラマも同時取得。
2.3DCGモデリングとテクスチャ
2-1. ブロックアウト
Autodesk Mayaにドローンのカメラトラッキングデータを読み込み、街並みの大まかなビル配置をポリゴンで再現。米花町駅前広場や商店街通り、住宅街をドラフティング図を参考に配置しました。
2-2. 詳細モデリング
- 建物・小物:駅舎の屋根瓦、広告看板、街灯、ポスト、街路樹をハイポリゴンで作成し、Substance Painterで4Kテクスチャを割り振り。
- ウェザリング:壁面の汚れ、看板の塗装剥がれ、窓枠の錆びをPBRマテリアルで表現し、長年使われた風合いを演出。
3.ライティングとレンダリング
3-1. 環境ライティング
- HDRI:空撮時取得の18KパノラマHDRIを背景ライトに使用。
- V-Ray Sun+Sky:シャープな陰影を作り、街並みの立体感を強調。
- 補助照明:テクスチャの反射とアンビエントライトで陰のつぶれを回避。
3-2. レンダリング設定
- レンダラー:V-Ray 5 for Maya
- パス分割:Diffuse/Specular/Reflection/Z-Depth/Motion Vector/Ambient Occlusion
- 解像度:4K/フレーム60
- サンプリング:Adaptive DMC(Max Subdivs 24)/モーションブラーON
4.コンポジット:Nukeワークフロー
4-1. プレート合成
- **実写プレート(背景映像)**をReadノードで読み込み。
- Z-Depthパスで大気遠近(フォグエフェクト)を追加。
- CGレイヤーをCamera Projectionで合成、パースを完全一致。
4-2. キャラクター合成
- キャラ原画はToon Shaderを施した3D平面モデルにマッピングし、Alembic経由で読み込み。
- Light WrapノードでCGライトをキャラに馴染ませ、黒ベベルエッジで手描き輪郭と統一感を確保。
4-3. パーティクル・エフェクト
- 粉塵:FumeFXで舞うチリをシミュレート、Merge(Plus)でOver合成。
- 光芒:V-Ray Environment FogのGod Raysオプションで、ビル間に差し込む太陽光を演出。
5.最終仕上げと画作り
5-1. カラーグレーディング
DaVinci Resolveで全体トーンを調整。シャドウを少し持ち上げ、クールトーンの青みを帯びた空気感を演出。映像全体に統一感をもたせました。
5-2. サウンド同期
- 風切り音、都市ノイズ、ドローンプロペラ音をSEとして配置。
- BGMの静かなピアノアルペジオと重ね、空撮風カットの臨場感を高めています。
5-3. クオリティチェック
- 視聴テスト:社内モニターでCGカットと手描き背景を連続再生し、「違和感がないか」「動きの速度感は適切か」を厳しく検証。
- 修正:必要に応じてレンダーパス再出力、コンポジット微調整を実施。

おわりに
手描きとCGを融合させたドローン視点の“空から米花町”は、従来のセルアニメ表現を新たな次元へと引き上げました。リファレンス撮影からモデリング、ライティング、コンポジット、音響まで一貫したワークフローを確立し、作品世界にリアリティと躍動感をもたらしています。ぜひ劇場版やTV回を見返し、空撮風カットを探してみてください!
参考・引用
- 劇場版『ゼロの執行人』オープニングカット
- TVA第772話「米花町ジェットコースター襲撃事件」
- DJI Inspire 2/X7マニュアル
- Autodesk Maya & V-Ray 5 ドキュメント
- Foundry Nuke & DaVinci Resolve ユーザーマニュアル
前2部で「ドローン撮影→3DCGモデリング→レンダリング→コンポジット」までの制作フローを解説しました。最終章となる第3部では、制作現場が直面した課題とその解決策、ワークフロー最適化の工夫、そして今後の発展可能性について、具体的な事例を交えてご紹介します。
6.制作課題とテクニカルソリューション
6.1. 手描き背景とのマッチング
課題
- 3DCGの精細すぎる質感と、セルアニメの省略的なタッチ感との齟齬
- 線の太さや色味、影の落ち方が手描きカットと合わず、浮いて見える
解決策
- ラインエッジベベル
- Maya内で全CG建物に「黒ベベル」を1ピクセル相当で付加し、輪郭線がキャラクターや背景と近い強度に。
- ライトラップ合成
- NukeのLightWrapノードを使い、CGオブジェクトと手描きプレートの境界を自動的にブレンド。柔らかな光の重なりで違和感を軽減。
- カラーリグ調整
- DaVinci Resolveでモノシャドウを少し持ち上げ、彩度を抑えることで“フラット寄り”のアニメ調ルックを再現。
6.2. 大気遠近感(フォグ)演出のバランス
課題
- ドローン空撮らしい大気遠近は必要だが、やりすぎると手描き背景のコントラストが潰れる
- シーンによっては米花町の“くっきりした背景”を保ちたい
解決策
- 可変フォグ強度マスク
- Nuke上でZ-Depthパスを使い、手前〜中距離はフォグ0%、奥行き10秒メートル先から徐々に5%強度をかけるマスクを自作。
- RGBフォグチャンネル
- V-RayのEnvironment FogでRGBフィルター機能を使い、青みだけを大気遠近に適用。手前は暖色系をキープし、奥行きに冷色化を限定。

6.3. 大規模データの軽量化
課題
- テクスチャ4K/パーティクルシミュ/高ポリモデルが数百GBに
- ローカルワークステーションでは扱いきれず、レンダーファーム依存度が高まる
解決策
- テクスチャストリーミング
- V-Ray TexRoad(テクスチャ遅延読み込み)を活用し、カメラ近傍のオブジェクトのみ4K、遠方は1Kに自動リダクション。
- オクルージョンキャッシュ
- パーティクルやレンダーパスの一部をOpenVDBキャッシュ化し、複数カットで再利用。
- プロキシジオメトリ
- Mayaプロキシを活用し、ビル群の背景オブジェクトはビューポートで軽量版、レンダー時に置き換え。
7.ワークフロー最適化とチーム運用
7.1. コミュニケーションの効率化
- Daily Sync ミーティング
- 毎朝10分のオンライン立ち会いで進捗と課題を共有。
- Issue Tracking
- ShotgunやJiraに「タグ:DroneCG」「タグ:HandDrawnMatch」などを付与し、問題の起点と解決ステータスを可視化。
7.2. パイプライン自動化
- Python スクリプト
- Mayaのシーン整合チェック(テクスチャMissing、ノード未接続)を自動化。
- Render Manager
- Deadlineでキューに入ったジョブを「時間帯別優先度ルール」に従い自動配置し、夜間は重いCGカットを優先。

8.今後の展望と技術革新
8.1. リアルタイムエンジンの活用
- Unreal Engine or Unity
- 将来的には事前に「米花町ワールド」をUnreal上で構築し、ドローンリファレンス撮影とリアルタイム合成プレビューを実施。
- メリット:
- 即時のライティング調整、カメラワーク確認が可能
- VRデータを活用したコラボレーションが円滑に
8.2. AIアシストによる自動マッチムーブ
- Deep Learning カメラトラッキング
- 撮影機から得た映像にAIベースのトラッキングを適用し、従来手作業で行っていたカメラ解像を半分以下の時間で完了。
- AIノイズリダクション
- CGレンダーパスのノイズ処理をNVIDIA OptiXやDaVinciのNeural Engineで加速。
9.まとめ:リアルとセルが融合する未来
- ドローン実写リファレンスと3DCGモデリングをシームレスに繋ぐことで、これまでにない“米花町空撮風カット”を実現。
- 手描き背景とのマッチングは、ラインエッジベベルやカラーリグでアニメ調に仕上げ、違和感なく融合。
- 大気遠近演出やパーティクルエフェクトは、実写らしさを残しつつアニメ世界に馴染むバランスを追求。
- パイプライン自動化とネットワークレンダリング最適化で制作効率を大幅向上。
- 将来的にはリアルタイムエンジンやAIアシストを取り込み、さらに軽量かつ高品質な空撮合成が期待できる。
制作チーム一同、最新技術を駆使しつつ“セルアニメの味”を大切にし、これからも『名探偵コナン』の世界をアニメーションとCGで豊かに描き続けます。ぜひ皆さんも劇場版・TVシリーズの該当カットを探して、その完成度をご堪能ください!
参考文献・ツール
- DJI Inspire 2 / Zenmuse X7 マニュアル
- Autodesk Maya + V-Ray 5 ドキュメント
- Foundry Nuke & Blackmagic DaVinci Resolve ガイド

ドローンで空から米花町!CG合成メイキング 総まとめ
この3部にわたるメイキング解説では、『名探偵コナン』制作チームがいかに“ドローン視点の米花町空撮風カット”を生み出してきたかを、撮影から最終仕上げまで一貫してご紹介しました。
- リファレンス撮影
- 神戸・横浜の街並みでドローン(Inspire 2+X7)の6K実写リファレンスを取得。
- 高度100→20mのズーム、水平パン、360°回転など多彩なフライトプランで、昼間の影や建物シルエットを詳細にキャプチャ。
- 3DCGモデル構築&テクスチャ
- Mayaで街区をブロックアウト後、ZBrushで瓦屋根や看板などディテールを掘り込む。
- Substance Painter→PhotoshopでPBR質感とウェザリングを加え、リアルな“長年使われた街並み”を再現。
- ライティング&レンダリング
- ドローン取得HDRI+V-Ray Sunで自然光を再現。
- 4K解像度・60fpsでDiffuse/Specular/Z-Depthなど多層パスを出力し、モーションブラーも歪みなくキャプチャ。
- コンポジット
- Nukeで実写プレートと3DCGをCamera Projection合成。
- Light Wrap×ラインエッジベベルでセル調と調和させ、Z-Depthで大気遠近をコントロール。
- パーティクル(FumeFX粉塵)、V-Ray FogのGod Raysで都市の空気感をプラス。
- 進行管理&最適化
- Shotgun/Jiraによるタスク管理とDeadlineレンダーマネージャで効率化。
- テクスチャストリーミング、プロキシジオメトリ、オープンVDBキャッシュなどでジョブ軽量化。
- 課題への対処
- CGの細密感と手描き省略美学のズレは、ラインベベル&カラーリグ、Light Wrapで解消。
- 大気演出は可変フォグマスクとRGBフォグで「空撮らしさ×アニメの見やすさ」を両立。
- 将来展望
- Unreal Engineによるリアルタイムプレビュー、AIベースのカメラトラッキング/ノイズ除去導入で制作速度とクオリティをさらなる高みへ。
ドローン実写の「動き」「光」「大気」を3DCGで忠実に再現しつつ、セルアニメの“味”を壊さない融合手法は、まさに映像制作の最前線を体現しています。今後はリアルタイム技術やAIアシストがさらに進化し、『コナン』の米花町はますます立体的でダイナミックに画面を駆け抜けることでしょう。ぜひ該当の劇場版・TV回を見直し、空からの米花町を改めてお楽しみください!
【経歴】
大学で日本文学専攻
卒業後5年間、アニメ関連出版社で編集・校正を担当
2018年よりフリーランスとして独立、WebメディアでConan分析記事を執筆
【 専門分野 】
『名探偵コナン』シリーズ全エピソード分析
ロケ地聖地巡礼ガイド・ファン理論考察・伏線解説

